ある日、ロマンティストの建築家から言われました。

「外代樹夫人を舞えるのは月妃女しかいないと思う。夫である八田與一の命日に踊って欲しい。」

それまで外代樹夫人の存在を知らなかった私は、お勉強しました。

そして、外代樹夫人の心を想像すると涙が止まりませんでした。

八田與一も、妻・外代樹夫人も石川県金沢出身。

当時貧しかった台湾の台南に世界最大級のダムを造り、地球半周ほどの気の遠くなるような水路を完成させて、貧しい約400万人の農民を豊かに潤し、台湾の父と称され歴史の教科書に載り李登輝から尊敬されている八田與一。

しかし次なる視察の途中、アメリカからの魚雷攻撃に合い海で亡くなると、妻の外代樹夫人は後を追うように入水します。

しかも!夫がダムを完成させた記念日に、ダムの排水溝へ・・・!

何という従順な純愛でしょう!平成生まれの女性では絶滅品種なくらいの美しすぎる純愛ではありませんか!

月妃女は、八田與一の妻・外代樹夫人の心情変化を丁寧に想像し表現しました。

死へと向かう外代樹夫人の姿に切望感はありません。愛する人にようやく再会できる幸福感さえも讃える、最も美しい場面に演出しました。

売上の10%を台湾へ寄付し、夫・八田與一が建設した烏山頭ダム建設に携わり命を落とした人々の慰霊碑管理にお使い頂いております。 台南市長さんから感謝状を賜りました。

“生命の水 ~八田與一ご夫妻追悼~” への2件のフィードバック

  1. 実はこの時は撮影スタッフとして本番前日の稽古から通し、二回の本番をすべて拝見させていただきました。
    純真な女性の可愛らしさから、外地で苦労を重ねつつも妻になり、母になっていくやわらかな喜び、
    ダム完成のために重ねた犠牲を前に苦悩する夫を、自らの心を抑えて支える強いやさしさ、
    日舞の所作とパントマイムという、言葉の説明を控えるがゆえに奥深い表現は、
    いずれも台湾のなだらかで深い山や広やかな農地の風景と重なり、心にしみるものでした。
    言葉の表現を抑えたからこそ、見る者の感情を次々と呼び起こしていくのではとも思いました。
    客席から舞台を通すことで、私たちは未だ見なかったものを「懐かしい自分の記憶」として受け取るのかもしれません。

    その後の、夫の海難の報を知り、眠る子どもたちに別れを告げてダムへ向かい、
    逡巡の中で覚悟を決めて入水するまでの数分間、完全に無音の中で演じられたその光景は
    外代樹夫人の言葉にならない愛と葛藤(と言ってしまうと安っぽくなってしまいます。存在が言葉を超えることの証左かもしれません)が
    凝縮されているようで、流れる涙をぬぐうために身動きするのもはばかられました。

    今思い出しても涙があふれます。
    朴訥だけれども真摯な技師を演じたパントマイムとも相まって、忘れられない時間となりました。
    舞台を拝見できたことは私の宝もののようになっています。

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